好きだった。

「…陛下」

誰も居ない玉座。
ゆるりとその肘掛けを撫でると、もうそれだけで涙が溢れ出してきて…思わず自嘲の笑みを浮かべ、目を閉じる。

「世界で一番、大好き、だったよ…俺だけの陛下」

目蓋の裏にこびりついて離れないあの笑顔。
ニッコリと、まるで太陽の様に笑っていた彼を忘れるなんて出来る筈も無い。

「今は…何処に居るの?」

赤い色の玉座の背もたれに寄りかかると、一瞬、ふんわりと太陽の香りがして。

「………っ」

そう、それはまぎれもなく彼の香り。世界中のどの香水とも違う、彼だけの麗しい香。
その香りはやはり、この部屋にも今まさに流れ込む光の先に有る…彼に似た太陽のような香りで。

「嗚呼、やっぱり貴方は…そこに居るの……?」

気がつけばまた一筋、涙が頬を伝って流れている事に気付き、そしてまた、小さな笑みを零す。
自分が馬鹿だという事はとっくに理解しているし、それが決して良い事では無い、という事も分かっている。



それでも、この衝動だけは抑えられない。



「ピオニー陛下…貴方の隣には…俺が」

俺が、居たいんだ。そう小さく呟いて、懐から妖しい程のきらめきを放つ短剣を取り出す。
確か前にこの宮殿を訪れた際、俺の剣を見、彼が初めて見せてくれたのがこの美しい装飾の施された短剣だった。
まぁ護身用だがな。そう言っていたあの時の彼の笑みもまた眩しかったのを鮮明に覚えている。

「俺が行ったら、驚いてくれるかな…?」

短剣を自分の胸に当てて、すう、と深呼吸をする。
そして…一思いに、勢い良く、そして後悔のないままに…



一気に、突き刺した。



「っあ…ぅあああああッ……!」

元々赤かった玉座が、更に紅くあかく、血を吸い取って染まりゆく…その残酷な様子。
涙で視界が霞んだ瞳にはもうその紅い色しか映らなくなり、そして次第にそれすらも紅から黒へとブラックアウトしていく。

「ねぇ、あなたは…っ、よろこんで…くれ、る…かな……?」

もう何も見えなくなった目に続き、もはや意識さえも霞んできていて。
確実に死が訪れているのを恐れる気持ちと同時に、彼に近づいてゆくのが感じられて、それを嬉しいと思ってしまう自分はやはり馬鹿だ、と改めて思う。
それでも、もうこの時間の進行は誰にも止められない。

「この…短剣っ…の、かわり、に…まもる…から、」

護身用の短剣。それを失った代わりに、俺が貴方を守るから。
ずっと離さない、誰にも触れさせはしない。もはや神々しいまでの光を放つ貴方は、最期まで麗しい王の顔をしていた。
そんな彼を、一人にはさせない。



「…っ……あ、ぁ…あああッ…………ピオニー…!」






だから、絶対に貴方の隣へ逝かせて。
 

アビスは何故か死にネタに手を出しがちです。
ぬーん…本編中にはあまあまで砂吐き放題だZE☆ってシーン盛り沢山なんですけどね、アビスってヤツは。。。
なのに甘いの書こうとしても何故か微エロ方向に向かってしまってもうどうにもこうにも…!!←
どなたか私の脳を救って下さい、きっとまるで中学生男子の様な脳だと思うんで←←←
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