滴り堕ちて。

「…ジェイド」
雪降る街の中、ルークの声は震えていて。
それが寒さによるものなのか、はたまたそれ以外の理由なのか。
一言だけでそれを判断するなんて事は流石に出来ず、ジェイドは咄嗟に後ろからルークを抱きしめた。
「なんですか…それよりもルーク、寒いんですか?もしそうならホテルに帰っ…」
「嫌だ、まだ帰りたくない…!」
紡ごうとした言葉の上に、強引に言葉を重ねられて思わずルークを抱きしめていた腕が緩む。
「ルーク…どうしたんですか」
「…ッ、とにかく…まだここで…ジェイドと一緒に……っ!」
そう言ってルークはするりとジェイドの腕の中から抜け出し、
そしてジェイドと正面で向き合ってそのまま静かに体を寄り添わせた。
暗い空の下、電灯の明かりだけがぼんやりと二人を写し出して、そしてチカチカと点滅を始める。
どうやらもうすぐ電池切れらしい。
重なり合い、しかし時に点滅し始める二つの影をふと眺めながら、ジェイドはルークのさらっとした紅い髪を手で梳いてゆく。
「ルーク、今日は一体どうしたんですか?言わないと私には分かりませんよ…?」
どうしたんですか。その理由なんてとっくに知っているのにあえて問いを重ねるのは、もうそれ以外にかける言葉が無いからだった。
「…ルーク」
もしかしたら明日、永久に居なくなってしまうかもしれないたった7歳の子供に一体何が言えるというのか。
そう、あの暗い空の上に浮かんでいる大地で明日、犠牲となるであろう…この目の前の小さな愛しい恋人。
今梳いているこの綺麗な髪も、自分を見つめてくる輝いた翡翠の目も、そしてあの眩しい程の笑顔も。
彼の持つ腕も脚も首も顔も髪も、何もかもがこの世界からすべり落ちて行ってしまうのかと思うと、無意識の内にルークを強く抱きしめていて。

「ルーク…っ」

もう、本当にそれだけしか言えなくて。
ルークの名前を何度も何度も呼んで、何回も何回も、頭上からキスの雨を降らせた。
涙を流しているのか、はたまた単純に雪が溶けて濡れているのか。
最後に落とした唇へのキスでその答えを見つけてしまい、ジェイドは思わず彼を抱きしめたまま項垂れた。
「…ルーク……!」
そのキスの味は、少しだけしょっぱくて、決して無味などでは無かった。
そう、それが…答。

「ねぇ、俺の事…っ、忘れないで…!!」
涙を流し、嗚咽しながら叫ぶ。残された時間は、あと24時間も無い。
ただ一つ、願いを伝えてルークはジェイドの背中に手を回す。
きっとこれが、最後の抱擁。

「私が貴方の事を忘れる筈無いじゃないですか…ルーク」
ゆっくりとルークの手を外して、面と向き合う。
そして二人とも睫毛が濡れているのを見、小さく笑い合った。
「なんだ、ジェイドも…っ」
紡ごうとした言葉は、唇によって塞がれて。
そうして唇と唇だけが触れ合う軽いキスが永遠とも思える間続いて、やっと唇が、そして体が…離れる。
目を開けた二人の影はいつの間にか無くなっていて、ただ暗闇だけがその場を支配していた。

 

あぁ、切れてしまった。



どちらともなく呟き、そしてすぐに、真っ白な雪の上に二粒の水滴がポタリと落ちる音が聞こえた。
 

書き終えてから、ジェイドのセリフ全部に「ルーク」って入っている事に気がつきました。
ウチのサイトの大佐はどうも受け受けしく、そしてヘタレになってしまうようです←
今度ピオジェでも書いてみようかな。鬼畜陛下(仮)。。。
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