ナミダのアト

いつまでも、君を想って涙する






「旦那、俺、アンタの事がずっと好きだったんだ」
そういって佐助はやんわりと笑った。
「でもさ、そう思ってたのは俺だけなんだよね」
「佐助…」
ためらいがちに口を開いた彼の主は、小さな声でポツリと彼の名を呟いた。
「良いよ、何も言わないで。これはただ俺が言いたかっただけなんだから旦那は悪くない、そうでしょ?」
そう言うと幸村は困惑したような顔で佐助を見つめる。その動作がまるで子猫のように愛らしくて、佐助は思わず嗚呼、とうめいた。
昔から好きで好きで堪らなかった。それでも今まで何も言わなかったのは、彼が自分の主であり、また、彼はいつも自分のことを気にかけてくれていたからだ。
自分が主にとって一番の存在であるという事。それだけが佐助にとっての救いだった。
「ごめんね旦那、いきなりこんな事言って…でも…でもね、俺は、」
…けれど、今はもうその救いすら無くなってしまった。
ついこの間まで自分に向けられていた感情はもうとっくに別の人へと移っていて、その事が無性に佐助の気持ちを駆り立てていた。
このまま忘れ去られてしまう前に、早く、早く伝えなければ。
そう思って、気が付いたら自白してしまっていたのだ。幸村はその場に座りこんだまま、身動き一つせずにうつむいている。
「混乱させちゃったねぇ…でもこれだけは、忘れないで。何が有っても、俺は、」
その時、屋敷の出入口から聞き慣れた声が聞こえてきた。
彼の声は聞き慣れている。戦場で何度も出会い、敵として戦ってきたからだ。しかし今この屋敷を訪れている彼は、戦場での姿からは想像も付かないような穏やかな声をしている。それ程に、彼と今ここにいる主との間には深い信頼関係を築いているのだろう。そう思うと途端に涙が溢れそうになるけれど、決して泣きはしない。
多分今一番泣きたいのは俺の目の前にいる人だろうから。
現に今も、あの特徴的な青い衣装の見える方向をチラチラと伺いながらもこちらを気にしているのか、うつむいたままその場から動かない。
その状態のまま、少し時が経ったけれどこのままではあの声の彼が「幸村はまだか!?」と怒りだすに違いない。主の腕を掴み、体ごと立たせてすぐに手を離した。
「旦那、最後に一つだけ言わせて…」
そう告げると、優しい主は顔を上げてうん、と頷いた。頬には涙の跡が一筋残っていたが、それを拭うことはあえてせずに言葉を紡ぐ。
「一生旦那を守るよ。たとえ何が有っても、俺は旦那のそばにいるから。だから…」
あと一言、それで全てが終わり、また始まる。主に向かい、ニッコリ笑って最後の言葉を発した。
「旦那、いってらっしゃい!!」
すると、主の瞳から大粒の涙が溢れ出した。だがしかし、それを気にすることも無く、くしゃくしゃに顔を歪めながら口を開いた。
「佐助…、行って、くる…!!」
そう言って駆け出した主を無言で見送る。
気がつけば涙が流れていたけれど、いつから泣いていたのかは分からない。
ただ止めどなく溢れる涙を拭いながらゆっくりと壁にもたれかかった。
そしてそのまま、ずるずると滑り落ちて床に座り込む。
もうそこから動く事は出来なくて、その代わりに最後まで言えなかった言葉をゆっくりと呟いた。






「…大好き、だよ………幸村様」
 

佐助に「幸村様」と言わせたいが為に書いたSS。
とにかく佐助は大事なことが起こった時は必ず旦那、じゃなくて幸村様、って呼べば良いと思います
そして幸佐だったら鬼畜攻め、佐幸なら誘い受け風味が個人的に大ヒットです。
あ、ちなみにタイトル「ナミダのアト」の [アト] には跡と後の2つの意味を込めてみました。
最後のセリフは涙の跡が付いたまま、その涙を流した後に言ったセリフだよ、という…!
幸村も跡がついたまま蒼のカレの元へ行くもよし、男らしく全て拭ってゆくも良し…
もー泣いてるシーンとか妄想するの大好きです、私。
ゆっきーか佐助が眼鏡掛けて鬼畜眼鏡になれば良いと思います。。。
というかそんなゲーム出たら速攻で限定版予約します
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